The Last

ある日YouTubeをいつものように漁っていると見慣れない文字と共に一つの動画に出会った。

 

‘‘AgustD’’

 

 

その時はまだユンギさん改めAgustDのミックステープの存在も知らなかったしRMのDoyouも知らなかった。しかしサムネイルにユンギさんがいたので聴いて見ることにした。一応和訳付きの動画を探して。

 

 

 

 

 

見終わった感想としては「うわぁ、この人なんか怖いな」だった。いや、本当に。なんだかラッパーって感じする。ほ、香港に送る……?!なんだこの人。大人しそうな見た目して意外と怖いこと言うんだな…

 

私的にラッパーと言えば「酒!薬!女!」みたいなイメージだった。どんなイメージだよ。今はそう思える。そして関連動画に出てきた‘‘The Last’’。これで私のユンギさんに対するイメージは大きく一変することとなる。

 

 

 

 

 

 

 

それは防弾少年団のSUGA、いやミンユンギという1人の人間の「自分史」の様なものだった。自分史というと小学生くらいで書かされるそれまでの自分の歴史だ。ミンユンギはラップにのせて自分のこれまでの軌跡、苦悩、葛藤をボロボロになりながらも叫んでいたのだ。心臓に塩酸を掛けられているかと思うほど痛く、それでいて強くて脆い、危うい吐露だった。ミンユンギという人はなんだかダイヤモンドの様な人だと思った。ダイヤモンドはどの宝石よりも輝いている。そして硬度が高い。しかしその硬度の高さゆえ衝撃に弱く割れやすい。ミンユンギは、私には「孤高のラッパー」に見える。一見やる気のなさそうな、気だるげな表情。だが一旦ステージに立つと目の色を変え「SUGA」として誰にも負けない、彼だけのラップをする。でも彼は自分やグループへの攻撃、アンチには敏感できっと気にしているのではないかと思う。硬くて、輝いて、それでいて脆い。ミンユンギという人間はダイヤモンドだ。

 

 

 

 

 

ここで少し私の話をする。私はユンギさんほどではないかもしれないしユンギ以上かもしれないけども多少精神に問題を抱えている。精神的な問題は一つの物差しで測ることができないのだ。人にとっての問題は同じ問題でも受け取る人によって衝撃の大きさが違うから当たり前だ。私は2週間に一回は精神科に行っているような女である。勿論薬も飲んだりしている。それもあってユンギさんのThe Last に多少なりとも共感というか、通ずるものというか、フィーリングというか…そういったものを感じた。

 

 

부모님 왈 날 잘 몰라
親は 俺の事をよく分からないと言った

나 자신도 날 잘 몰라

自分自身も 自分がよく分からない

 

 

「自分自身も自分がよくわからない」という一節にどれだけの人が共感しただろうか。この歌詞の前でも述べているように、彼はきっと「自分がこの世に存在していないのではないか」のような強い乖離感を感じていたと思う。乖離感、背き離れること。離れ離れになること。きっと何もできない自分、ただ現状で足踏みしているだけの自分、それと反して猛スピードで進んでいく現実、世界に自分だけふわふわと浮いたような感覚をおぼえたのではないだろうか。

私もよく親に「貴方のことがよくわからない、難しいね」といわれる。なんとはない、悪意も何もない一言なのだろうがいわれた本人も自分のことがよくわからないのだ。よくわからなくって、どうしようもないのだ。何がしたいのか、何をどうすれば楽になれるかわからない。「楽」という感覚も何かわからない。だから病院に行ったのだ。どうにかしようとして、精神科に助けを求めたのだ。ユンギさんも、どうにもならなくなってやっと病院にいったのではないだろうか。これは完全に私の憶測に過ぎないが。

 

 

의사 선생님이 내게 물었어
お医者さんが 俺に問いかけた

----적이 있냐고
----した事があるのかと

주저 없이 나는 말했어 그런 적 있다고
躊躇なく俺は言った「ある」と

 

 

「——した事があるのかと」

この「ーー」部分はミックステープでも「ピー」という電子音で隠されて本当のことは彼しかわからない。でも私には少しだけわかるような気がする。彼が医者に何をいわれたのか。

「自殺しようとしたことはあるか」

きっとそんなことだと思う。

鬱病の、抑うつ状態の強い希死念慮、強迫観念、対人恐怖症、今にも不安や死にたさでいっぱいいっぱいだっただろう。苦しい、辛い、解放されたい、早く楽になりたい…そんな思いから自殺を企てたのではないだろうか。そんな医者の質問に対して彼は「躊躇なく」‘‘ある’’と答えている。ここが彼が彼たる所以ではないか。私は医者に同様の質問をされた事があるが歯切れ悪く「あぁ、あります…」と答えた。後ろめたさがあったからだ。また自分の心を赤の他人にさらけ出すのは恥ずかしくもあった。しかし彼は「躊躇なく」自分の意思を伝えた。ダイヤモンドは硬い。彼は硬い意思を脆いながらも伝えたのだ。

 

 

 

それからこの歌で語られている神戸事件のことを知った。もし私がその場にいればペン卒していたかもしれない。だって、ステージに立ってラップをするのは彼の仕事だから。仕事を放棄するのはいただけない。でも彼は責任を誰よりも感じて、後から神戸に行っている。ここにも彼の硬い意思を感じた。私がもしユンギさんの立場だったら、なんだか恐ろしくて神戸に再び降り立つなんてことできないだろうから。でもユンギさんは神戸に行った。そして彼の中でなにかしらの誓いを立てたんだろう。本当に強い人間だと思った。

 

 

 

 

 

 

私はTheLastを聴いて、和訳を見て泣いた。あんなに輝いている人でも私と同じように悩んでいたのか。なんだか同じ人だと思えない完璧に見えた人間も、人だった。私達と変わらない、1人の人間のだった。

今では「世界の防弾少年団」「世界のミンユンギ」「世界のSUGA」になった彼だが、彼も私達と同じように考え、悩み、障壁にぶつかり、そしてのし上がってきた。辛い時や通院する時TheLastを聴く。そして辛いのは自分だけではないのだと思う。なんだか心強くなる。彼はミンユンギという人間の人生を赤裸々に告白して誰かを勇気付けたかったのではなかろうか。ユンギさんはとても優しいから、きっと私のように救われる人間がいるのではと考えたのではなかろうか。ユンギさんはやっぱりぴかぴか輝いている。ダイヤモンドのように。